NPO法人会計基準を知るシリーズ① ~損益計算書と活動計算書の違い 基礎編~ 

会計知識

NPO法人。様々な社会的課題に対して活動している団体。

現在日本で50,000法人以上存在していますので、皆さんの周りにもNPO法人で勤務されている方や、NPO法人でプロボノやボランティアをしている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

今後益々世の中が多様化し、先進国の国家財政が厳しくなる中で、ソーシャルセクター全般の規模の拡大というのは、とても重要な流れになってきていると思います。

 

その中で、NPO法人が寄付を集めたり、補助金を受け取るためには、活動を対外的に報告しなければなりません。このように、法人の活動を対外的に報告するという仕組みは、会社が財務諸表を作成し公表するのと同様であると言えます。

 

しかし、NPO法人の活動を報告する際には、企業会計の基準とは異なる、『NPO法人会計基準』が用いられます。

みなさんが興味を持ったNPOの財務状態はどうなっているのかを確認する際にも、会計専門家がNPOの活動を支援する際にも、『NPO法人会計基準』の理解は不可欠になってきます。

 

そのため、今回はNPO法人会計基準の基礎を説明したいと思います。

株式会社においては、事業年度における収益と費用の状態を示す『損益計算書』を作成いたしますが、それに対応するものとして、NPO法人においては、『活動計算書』の作成が義務づけられております。そこで、まずは、『損益計算書』と『活動計算書』の違いについて、簡単に見ていきたいと思います。

 

1.NPO法人会計基準の目的

(1)NPO法人会計基準の目的

まず、企業会計の基準とNPO法人会計基準の目的の違いを理解することが大切です。

企業会計の目的は、企業の適切な経営成績と財政状態を開示し、投資家の判断に有用な情報を提供するとともに債権者の保護を図ることにあります。つまり、会社の儲けの状況と財産の状態を表示することで、投資家と債権者に有用な情報を提供することを主目的にしているのです。

これに対して、NPO法人会計基準は、寄付などの出し手である市民への適切な情報開示を目的としています。もともとNPO法人は利益の分配を目的としていないため、事業の継続性や寄付金を適切に利用しているかどうかを開示することに重きを置いているのです。

 

(2)損益計算書と活動計算書の違い

上記のような目的の違いから、損益計算書と活動計算書のひな形は、下記の様に異なっています。

№11①

会社法における損益計算書においては、まず、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益から、販売費及び一般管理費を控除して営業利益を算定します。その後、営業外収益と営業外費用から経常利益、特別利益と特別損失から税引前当期純利益、そこから法人税等を控除して当期純利益を算定するという構造です。

 

これに対してNPO法における活動計算書は、まず『経常収益』から『経常費用』を控除して当期経常増加額を算定します。そこから、法人税等を控除して当期正味財産増加額を算定し、これに前期繰越正味財産額を足すことで最終的に次期繰越正味財産額を算定するという構造です。

前期繰越正味財産額と次期繰越正味財産額を開示することで、収益と費用の状態を示すだけなく、事業の継続可能性についての情報も開示していると言えます。

以下では、活動計算書の具体的特徴について見ていきたいと思います。

 

2.活動計算書の具体的特徴

(1)経常収益の項目

まず、一つ目の特徴が、経常収益の内訳の開示になります。企業会計上の売上高などの収益に対応する項目として、『受取会費』・『受取寄付金』・『事業収益』・『受取助成金等』・『その他収益』などに区分表示されることになります。

それぞれの区分の意味は、以下のとおりです。

№11②

上記の区分から経常収益の内訳を読み取ることができます。

ここで、NPO法人の事業形態のモデルは、大きく3つに分けられます。

 

・寄付型の事業モデル

・事業収益型の事業モデル

・寄付型と事業収益型のハイブリッドモデル

 

NPO法人の継続可能性を検討する際には、事業モデルが寄付に依存しているモデルなのか、事業収益を獲得できているモデルなのか等を把握することが非常に重要となってきます。ハイブリッドモデルであっても、NPO法人が行う活動は、低所得者を対象にした事業を行う場合も多く、受益者から対価を受け取ることが困難な事業領域も多く存在していることから、経常収益の内訳として、事業活動による収入がどれくらいあるのかを読み取っていく必要があるのです。

このように、活動計算書の経常収益の内訳を見ることで、そのNPO法人がどのモデルの事業形態なのかを読み取ることができるのです。

 

 

(2)経常費用を事業費と管理費に区別する意味

また、経常費用は、大きく『事業費』と『管理費』に区分して表示されます。

それぞれの区分の意味は、以下のとおりです。

№11③

上記の区分から経常費用の内訳を読み取ることができます。

寄付金の提供者や助成金の提供者は、提供した資金がどの程度事業活動に使われたのかという点について興味を持っていますので、経常費用については、事業費と管理費に区分して表示することとされているのです。

また、NPO法人は、利益の分配を禁止されている代わりに、税制面などで様々な恩恵を受けているため、人件費を装った実質的な利益の分配を防ぐという趣旨から、事業費と管理費の内訳項目として、人件費の金額を明示することになっています。

 

3.総括

上記の様に、NPO法人会計基準においても、複式簿記の原理が採用されており、根本的な会計処理の考え方は企業会計と同様ですが、その目的の違いから、表示の区分等に様々な相違点があります。

そのため、会計の専門家といえども、当初はその違いに戸惑うことが多いです。

このブログにおいても、今後も引き続き、NPO法人会計基準については解説を行っていきますので、是非参考にしてもらえればと思います。

 

4.『会計プロフェッション向け、NPO会計入門研修』

また、定期的に下記のようなNPO法人会計基準の研修会も開催されていますので、ご興味のある方は是非お気軽にご参加ください!

11月15日開催!

『会計プロフェッション向け、NPO会計入門研修』

Accountability for Change(AFC)主催 NPO会計入門研修
Accountability for Change(AFC)主催 NPO会計入門研修! 11月15日(日)にNPO会計入門研修開催決定! 公認会計士の社会... powered by Peatix : More than a ticket.