「ニュースだけではわからない! M&Aの基礎を徹底解説!」

会計知識

M&Aは、Mergers&Acquisitionsの略で、直訳すると「合併と買収」です。

 

「合併」は複数の企業が1つになること、「買収」は他の企業を買うことを意味しますが、一般的に「M&A」というと、合併と買収だけでなく、もう少し広い概念になります。

 

1.M&Aが意味するもの

M&Aは、他の組織の支配権を獲得するか否かによって、狭義のM&Aと広義のM&Aに分類することができます。

 

(1) 狭義のM&A

狭義のM&Aは、企業が他の組織(企業やその一部の事業)を取得して支配下に入れる活動の総称です。

具体的な手法としては、株式取得(株式譲渡、新株引受、株式交換・株式移転)、合併、会社分割、事業譲渡があります。

 

(2) 広義のM&A

広義のM&Aは、狭義のM&Aに加えて、会社の支配権獲得を伴わない、研究開発、生産、販売等の提携(アライアンス)を含んだ概念です。

 

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なお、本記事は上記の手法についてある程度イメージがある方を前提に説明をしています。それぞれの手法については、後ほど、詳しく説明していきますが、どんな手法なのかイメージが湧かないという方は、先に、6.M&Aの手法 をお読みください。

(3) 本記事におけるM&A

本記事においては、M&Aを広義で捉えて説明しますが、資本関係を全く伴わない、単なる業務提携については除外して説明していきます。

すなわち、狭義のM&Aに加えて資本関係を伴う提携を含んだものを、本記事では「M&A」ということにします。

 

また、本記事は、M&Aの基礎として、日本における現状やM&Aの目的、その手法について理解していただくことを目的にしております。したがって、法務・会計・税務面や、その他手続的なことは説明いたしませんのでご了承ください。

 

 

2.日本におけるM&Aの現状

(1) M&Aの件数

日本においても一般的に定着をしてきたM&Aですが、近年、会社法制の整備が進んだことから活発になり、毎年、規模の大小合わせて、公表されているだけで2,000件程度のM&Aが行われております。

実際に行われているM&Aがすべて公表されているわけではないので、実際の件数はさらに多いでしょう。

そんな活発に行われているM&Aですが、どういう目的でなされているのか、どのような手法があるのか等、実態を正しくイメージできている方は大変少ないのが現状だと思います。

 

(2) M&Aのイメージ

M&Aというと、ライブドアによるニッポン放送の買収(2005年)、村上ファンドによる阪神電鉄の買収(2005年)等、ある企業を乗っ取る「敵対的買収」のイメージが強いのではないでしょうか。

いわゆる、「乗っ取り」や「ハゲタカ」というイメージです。こういった事例の方が、ニュース等のメディアにもよく取り上げられ、注目度がありますし、また、その行く末を見ている側も面白いということなのでしょう。「M&A=乗っ取り」というイメージは、そういったメディアが作り出したものと言っても過言ではありません。

 

しかし、日本におけるM&Aのほとんどは、友好的なものであり、敵対的買収は全体の1%にも満たないのが現状です。

 

「敵対」という言葉から、買収対象企業の利害関係者(経営者、株主、従業員、取引先等)のすべてが買収者と敵対している状態と勘違いされがちなのですが、実はそうではありません。

敵対的買収とは、買収者が、買収対象企業の現経営者の同意を得ないで行う買収のことです。

すなわち、敵対的買収という言葉の「敵対」とは、あくまで買収対象企業の現経営者との敵対を指しているわけです。

 

その他の利害関係者が買収に反対しているか否か、つまり、買収者と敵対しているか否かは、買収の事例ごとに異なってくるため、個別に確認しない限りわからないわけです。つまり、敵対的買収といっても、買収者が現経営陣と敵対しているだけで、買収対象企業の株主等がその買収に反対しているかどうかはわからないということですね。

 

これに対して、友好的なM&Aは、買収対象企業の現経営者の同意を得て行われるM&Aであり、わが国におけるM&Aのほとんどはこれに該当します。

したがって、本記事では、まず、友好的なM&Aを前提に説明をし、最後に敵対的買収について説明をしていきたいと思います。

 

 

3.M&Aの対象

他の企業が有している単なる財産(例えば、土地や建物)を取得しても、それはM&Aにはなりません。

それでは、何がM&Aの対象となるのでしょうか。

M&Aの対象は、事業(ビジネス)です。つまり、土地、建物、工場、設備等の様々な財産や働いている従業員といった多様な要素が一体となってキャッシュを生み出しているビジネスが対象となるのです。

 

事業を行っている企業自体を対象にするというのが一番わかりやすいと思いますが、その企業の一事業部門を対象にする場合もあります。

すなわち、事業を行っている「法人」そのものを対象にすることもあれば、その法人が行う「特定の事業」を対象にすることもあるわけです。

 

 

4.組織を支配するということ

(1) どうすれば組織を支配できるのか

狭義のM&Aは、他の組織の支配権を獲得するものですが、どうすれば他の組織を支配することができるのでしょうか。

ある組織を支配する際に、基本となる考え方は、「一体化」または「子会社化」の2通りです。

 

① 一体化

支配する際に一体化するということは、買い手企業が、ある法人や特定の事業を吸収して取り込むということです。法人と一体化する具体例としては、合併が挙げられ、特定の事業と一体化する具体例としては、事業譲渡や会社分割が挙げられます。

買い手企業がM&Aの対象と完全に一体化することから、最も強力な支配方法です。

 

② 子会社化

(ⅰ) 子会社化による支配

支配する際に子会社化するということは、買い手企業が、ある法人や特定の事業を買い手企業の子会社として傘下に入れ、経営を支配するということです。

子会社化する具体例としては、株式取得(株式譲渡、新株引受、株式交換・株式移転)が挙げられます。

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(ⅱ) 株式会社の経営を支配するためには

M&Aの対象となる法人が株式会社であれば、経営に関する意思決定を行う機関は取締役会です。取締役会はその株式会社のすべての取締役で構成され、経営に関する意思決定は取締役の多数決で行われるのが原則です。

したがって、子会社化することで株式会社の経営を支配するためには、経営に関する意思決定機関である取締役会を支配する必要があります。すなわち、取締役の過半数を買い手企業側で占めるということです。

 

取締役は株主総会で選任されます。

株主総会において、株主には、原則として1株につき1議決権が与えられ、その決議は多数決によって行いますが、決定する事項の重要性によって、その要件が異なります。

 

Ⅰ.普通決議

株主総会の決議の基本となるものを普通決議といいます。株主総会の普通決議によって決定するものとしては、取締役の選解任、剰余金の配当に関する事項、役員の報酬等です。

普通決議は、出席した株主の議決権の過半数が賛成すれば可決されます。すなわち、株式会社の議決権の50%超を保有する株主は、単独で、普通決議を成立させることができるのです。

 

Ⅱ.特別決議

普通決議よりも慎重な判断が要求される事項は、特別決議が必要となります。特別決議によって決定するものとしては、会社の根本に関する事項(定款の変更、合併、会社分割、事業譲渡、株式交換、株式移転、解散等)や、新株の有利発行(第三者に対して特に安価での新株発行)です。

特別決議は、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成すれば可決されます。

つまり、株式会社の議決権の66.66666…%以上を保有する株主は、単独で、特別決議を成立させることができるのです。

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(ⅲ) 支配力の調整が可能

子会社化による支配は、株式を通じた支配であるため、保有する議決権の割合によって、支配力を調整することが可能となります。

 

50%をちょっと超える程度の取得にとどめて、取締役の選任権を掌握して支配することもできれば、議決権の3分の2以上にあたる株式数を取得することで支配をさらに確実にすることもできますし、100%取得して対象会社を完全子会社とすることで、完全なる支配を実現することもできるわけです。

 

(2) 資本提携

資本参加を伴う業務提携を資本提携といいます。

他の組織の支配権を獲得しないまでも、対象となる企業の株式を取得して、一定の議決権を有することで経営への関与等を行いながら、技術や販売等について提携していくわけです。

 

対象企業の経営に関与できる程度は、保有する議決権の割合によって違ってきます。議決権の10%程度を取得して、ある程度の発言権を得ることを目的にすることもありますし、議決権の3分の1超(33.33333…%超)を取得することで、合併や定款の変更といった大変重要な事項について、単独で反対することを可能とすることもあります。

また、議決権を行使する株主が少ない会社であれば、50%超の議決権を有していなくても株主総会において過半数を占めることもできますので、その場合は買収と同様の効果があると言えます。

 

 

5.M&Aの目的

M&Aの対象と組織の支配について説明しましたので、ようやく、M&Aの目的を説明することができます。

M&Aは手法も様々ですが、その目的も様々です。M&Aの目的は、大きく、(1)経営戦略、(2)投資目的、(3)企業再生、(4)事業承継に分類することができます。

 

(1) 経営戦略

経営戦略とは、企業の目標を達成するために必要な活動と資源配分を決定することです。

つまり、目標達成のために、具体的に何をするのか、その際には、どのような経営資源を、どこに、どれだけ配分するかを決定することです。

 

※ 経営資源とは、一般的にヒト・モノ・カネ・情報を指します。ヒトは人的資源のことで、企業が有する人材を意味します。モノは物的資源のことで、製品やサービスを生み出す設備等、企業が有する様々な物のことです。カネは企業が有する資金を意味し、情報は技術やブランドイメージ等を意味します。

 

経営環境は日々刻々と変化するため、その変化に応じて企業の活動領域も変化させていく必要がありますが、企業が単体で有する経営資源には限りがあります。そこで、経営戦略として、M&Aが活用されることになるのです。

経営戦略としてM&Aを活用する場合として、① 多角化・拡大化、② 事業撤退、③ グループ内組織再編の3つが挙げられます。

M&Aというと、他の組織を支配下に入れるということで、買い手企業側の視点で考えることが多いですが、しっかりと理解するためには、売り手側の視点も考えていかなければなりません。 多角化・拡大化は、買い手側の視点によるM&Aですが、 事業撤退は、売り手側の視点によるM&Aです。

 

① 多角化・拡大化

多角化・拡大化は、企業と他の組織を統合することで、その企業が行う活動領域を広げていく戦略です。例えば、企業が新規事業に参入しようという場合において、経営資源が十分でないことを前提とすると、自力でそれを成し遂げるということは不可能ではありませんが、経営資源を一から調達しなければならないため、かなりの時間を要することになります。

これに対して、M&Aを行えば、不足する経営資源を企業外部から即時に取り込んで、機動的に新規事業等に参入することができるのです。さらに、既に実績等がわかっている企業を取得することにより、自力で事業展開をするよりも失敗するリスクを少なくすることもできます。

よく、M&Aは時間を買う戦略であると言われますが、このように短期間で多角化・拡大化することができるというメリットがあります。

 

また、活動領域を広げるM&Aにおいては、シナジー効果が期待できます

シナジー効果とは、相乗効果のことであり、ある企業が他の要素と組み合わさることによって、単体で得られる以上の結果が得られる効果を指します。相互補完により追加の利益を生み出すという効果だけでなく、重複コストの削減という効果もあります。

 

M&Aを活用した多角化・拡大化には、上記のようなメリットがありますが、当然デメリットもあります。それは、統合の困難性です。

統合の当事者の組織文化は当然異なるため、その異文化をいかに融合するかが問われます。特に困難と言われるのが、人材面の統合の難しさです。経営陣だけでなく、現場も含めたすり合わせ等をしていかないと当初予定していたM&Aの価値(シナジー効果等)が実現できないのです。

 

② 事業撤退

次に、事業撤退を目的にしたM&Aについて説明します。

企業の最適な活動領域は刻々と変化するため、活動領域を縮小する「選択と集中」を経営戦略として用いる場合があります。選択と集中とは、非効率な事業の縮小や撤退を進めて、事業範囲を絞り込み、企業にとって競争力や成長力のある分野に特化することで、持続的な競争優位を確立しようとする戦略のことです。

一体化している事業であれば事業譲渡や会社分割を用いて、子会社化によって支配しているのであれば、株式を譲渡することによって、自己にとって不必要な事業を他に切り離すことができます。事業を絞り込むことにより、1つの事業に対してより多くの経営資源を投入することができるため、市場における競争力が強化されます。

このように、「選択と集中」により、収益性や戦略性の観点から事業を撤退する際に、M&Aの活用が検討されることになるのです。

 

③ グループ内組織再編

グループ内組織再編とは、企業が子会社や関連会社等のグループ会社を対象に組織再編を行うことをいいます。企業グループ全体として適切な事業運営を図るために、グループ全体の経営資源の再配分を行うことが目的です。M&Aというと、グループ外の会社を支配下に置くというイメージを強く持ちがちですが、グループ内の会社を再編する場合にも用いられるのです。

 

グループ内組織再編を考える際に欠かせない組織形態は、「持株会社(ホールディングカンパニー)」です。持株会社とは、自らは事業活動を行わず、株式所有を通じて他の株式会社を支配することを目的とした会社です。

 

多角化を目指す企業は、戦略と事業を分離することによって、効率的な事業運営の実現を目指すために、持株会社化(ホールディングス化)を決断する場合があります。持株会社は、事業毎に子会社化されているため、組織構造を迅速に転換することで、限られた経営資源をグループ全体に再配分をすることができるのです。

 

(2) 投資目的

買い手企業側が、投資目的でM&Aをする場合もあります。

 

① M&Aにおける買い手の種類

M&Aにおける買い手は、目的によって、ストラテジックバイヤーフィナンシャルバイヤーの2種類に区分することができます。

 

(ⅰ) ストラテジックバイヤー

ストラテジックバイヤーとは、自らの経営戦略において必要な企業に対してM&Aを行う買い手のことです。一般的な事業会社が典型例となります。

 

(ⅱ) フィナンシャルバイヤー

フィナンシャルバイヤーとは、経営戦略ではなく、投資に対するリターンを最大化する目的を持って企業に対してM&Aを行う買い手のことです。投資ファンドが典型例となります。

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② 投資目的のM&A

(1)ではM&Aの目的として経営戦略を説明しましたが、経営戦略としてM&Aを行う買い手が(ⅰ)のストラテジックバイヤーになります。これに対して、経営戦略ではなく、投資目的でより高いリターンを求めるためにM&Aを行う買い手が(ⅱ)のフィナンシャルバイヤーです。

フィナンシャルバイヤーの典型例は先ほど投資ファンドといいました。ファンドというのは、基金、すなわち、お金の集合体のことです。つまり、投資ファンドは投資目的のために複数の投資家から集められた資金のことであり、それを運用し、得られた収益を出資比率に応じて投資家に配分するものです。

投資ファンドの中でも、フィナンシャルバイヤーとしてM&Aを行うのは、「バイアウトファンド」です。バイアウトファンドは、未公開企業(非上場企業)や、業績不振に陥っている上場企業等を買収し、経営に積極的に関与し、企業価値を高めたうえで、一定期間後に株式を売却することで資金を回収し、投資家に利益を配分することを目的とするファンドのことです。

その中でも、基本的に未公開株式(非上場株式)に投資するファンドを「プライベート・エクイティ・ファンド」といいます。

 

ストラテジックバイヤーもフィナンシャルバイヤーも、出資者の利益を追求するという点では当然共通します。一般事業会社であれば、株主、投資ファンドであれば、ファンドに出資している投資家のためです。

 

しかし、ストラテジックバイヤーは、経営戦略を目的としてM&Aを行うため、M&A対象事業の内容を重視しますが、フィナンシャルバイヤーは、投資目的、すなわち投資リターンの最大化を目的としてM&Aを行うため、買収時点の業種等はあまり気にせず、短中期的に価値を高める要素を持っているかどうかを重視する点で異なります。

 

(3) 企業再生

売り手企業側が、企業再生目的でM&Aをする場合もあります。

企業再生型のM&Aは、財務的に窮境に陥った企業が事業の存続を目的として行うM&Aのことです。この場合、買い手企業はスポンサーと呼ばれることが多いです。

売り手企業(再生を目指す企業)にとっての目的は、事業の継続や従業員の雇用維持を図るとともに、事業を資金化して債務の弁済に充てる、または、再生企業自らの資金繰りを安定させることに重きが置かれます。

 

買い手企業側(スポンサー側)については、財務内容が健全な企業を対象としたM&Aと同様です。経営戦略目的もあれば、投資目的の場合もあります。

 

(4) 事業承継

事業承継とは、一般的には、オーナー社長が企業経営を後継者に引き継ぐことを指します。オーナー社長とは、その企業の経営者でもあり、実質的所有者でもあるということです。株式会社であれば、経営者である代表取締役社長が株主も兼ねているということです。

 

株式会社は所有と経営が制度的に分離しており、株主は株主総会で基本的重要事項を決めるだけで、会社経営は経営者としての取締役に任せるという構造になっております。しかし、株主が取締役になることは禁止されていないため、株主が代表取締役社長となって株式会社を経営しているという中小企業が非常に多いのです。

 

我が国の中小企業の多くは、経営者の高齢化が進んでいるため、事業承継の時期を迎える企業が増えています。

従来は、オーナー社長が引退する場合、自分の親族(子供や兄弟)を後継者に指名して、株式を譲渡することが一般的でした。しかし、近年、親族が経営に参画する意思や能力が無かったりと、適任者が不在というケースが増えており、事業承継が円滑に進まないという事例が増加しています。

このような企業を存続させるためには、第三者を指名して承継させる必要があるわけですが、その際に、M&Aが用いられるのです。

方法としては、単にオーナー社長が株式を後継者に譲渡する方法や、合併により他の会社に吸収される方法、その他、株式交換によって他の株式会社の子会社となる方法等があります。

 

6.M&Aの手法

前述した通り、M&Aの手法は様々です。

それぞれの手法について、詳しく説明していきましょう。

 

(1) 株式取得

① 株式譲渡

M&Aの売り手側からすれば株式譲渡ですが、買い手側からすれば株式の譲受けになります。

株式譲渡は、M&Aの手法の中で、最も基本的な手法です。

対象企業の既存株主から、株式を譲り受けることによって、株式を取得し、対象企業を子会社化、または、対象企業と資本提携できます。

 

(ⅰ) 非上場会社の株式譲渡

非上場会社の株式は、基本的には会社法上の譲渡制限株式に該当すると思われますので、株式を譲渡する際は、当該株式を発行している株式会社の承認(取締役会等の承認)が必要となります。したがって、非上場会社の株式を取得して支配等をしようとする場合は、取締役会等の許可が必要になるのです。

言い換えますと、非上場会社の現経営陣の同意を得ることなく株式を取得することはできないということです。

 

(ⅱ) 上場会社の株式譲渡

これに対して、上場会社の株式は市場で流通しているため、取得するに際して会社の承認を得る必要はありません。

したがって、現経営陣の同意を得ることなく株式を取得することができるわけですが、上場会社を支配しようとして、上場会社の株式を大量に市場で取得するとどんどん株価が上昇してしまうため、買収のために大量の資金が必要となってしまいますし、市場に流通する株式数にも限界があることから、市場取引で大量の株式を取得するというのは現実的ではありません。そこで、公開買付け(TOB)が用いられます。

 

Ⅰ.公開買付け(TOB)の意義

公開買付けとは、株式市場外で、不特定多数の者に対し、取得内容を公告したうえで株式の買い付けを行うことです。

つまり、ある会社の株式を大量に取得したい場合に、公告によってこの価格で、この期間にこれだけの数を買い取るということを表明し、市場外で不特定多数の者から一気に株式を取得するのです。

公開買付けは、Tender Offer、または、Take Over Bid(TOB)と言われ、日本においては、TOBと言うことが多いです。

公開買付けは、金融商品取引法において定められた株式の買付方法であり、株主間の平等を図ること等、様々な要件や手続規制が存在します。

 

Ⅱ.公開買付けのメリット

公開買付けの方法を利用するメリットとしては、あらかじめ取得株式数やその価格等を決定することができるので、買収に必要な資金を事前に準備できることや、応募された株式数が予定していた数に達しなかった場合は買付けを実行しないことが認められることが挙げられます。

 

Ⅲ.公開買付けが強制される場合

上場会社等、有価証券報告書の提出義務がある株式会社の株式を市場外で買い付ける場合において、それが会社の支配権に影響を与えるような大規模な買付けに該当するならば、公開買付けの方法によることが金融商品取引法において強制されています。

 

支配権の異動がある場合は株主の投資判断にも影響があるため、市場価格の形成にも重大な影響を及ぼします

また、市場外における取引は、取引の結果等が公表されない不透明な取引となるおそれがあります。その結果、支配権を取得する際に提示される価格は市場価格を上回る価格に設定されることが通例なので、買付ける者が特定の株主のみを優遇してしまうことも考えられます

 

以上の理由より、株主に適切な情報を開示したうえで、株主間の平等を図る必要があることから、公開買付けが強制されるわけです。

 

Ⅳ.完全子会社とするためには

公開買付けを実行してもすべての株主が応募するとは限りません。しかし、完全子会社とするためには、応募しない少数株主が所有する株式を強制的に取得等して、会社から追い出す必要があります。このように、少数株主の所有する株式を強制的に取得して完全子会社とすることをキャッシュアウト、またはスクイーズアウトといいます。

キャッシュアウトの手法としては、詳しく説明することはしませんが、以下の4種類があります。

 

・ 全部取得条項付種類株式を利用する方法

・ 株式の併合を利用する方法

・ 株式交換を利用する方法

・ 特別支配株主の株式等売渡請求を利用する方法(平成26年会社法改正により新設)

 

② 新株引受

対象企業が新規に発行する株式を引き受けることで、対象企業の一定比率の株式を取得することができます。

買収の資金が対象企業の株主ではなく対象企業に渡るため、対象企業の経営に活用することができるというメリットがあります。

 

③ 株式交換・株式移転

株式交換・株式移転は、完全親子会社関係を創設するための制度です。株式交換は既存の会社を完全親会社とするもので、株式移転は新たに設立する株式会社を完全親会社とするものです。

 

(ⅰ) 株式交換

株式交換が効力を発生すると、対象企業の全株式を既存の会社が取得することになります。

対象企業の株主に交付する対価に制限はありません。したがって、完全親会社の株式だけでなく、金銭を対価として交付することもできます。

 

(ⅱ) 株式交換

株式移転が効力を発生すると、新たに株式会社が設立され、対象企業の全株式を当該新設会社が取得することになります。

対象企業の株主に交付する対価には制限があります。対価として認められるのは、完全親会社となる新設会社の株式、新株予約権、社債に限られます。

 

株式移転は、持株会社形態を形成する際に利用されます。すなわち、複数の株式会社が共同して完全親会社を設立する株式移転を行うことにより、当該完全親会社が持株会社となり、株式移転をした株式会社は、持株会社の完全子会社として傘下に入ることになります。

 

(2) 合併

合併は複数の企業を一体化する手法です。当事会社の一方が合併後も存続する合併を吸収合併といい、当事会社のすべてが消滅し、新しく会社を設立する合併を新設合併といいます。

ただ、税務上その他様々な理由により、新設合併はほとんど利用されておらず、基本的には吸収合併が利用されます。

合併手続は非常に煩雑なので、中小企業のM&Aにおいて合併が利用されるのは稀です。

 

(3) 会社分割

会社分割は、会社の事業に関する権利義務を既存の他の会社または新たに設立する会社に承継させる行為です。

既存の会社に承継させる会社分割を吸収分割といい、新たに設立する会社に承継させる会社分割を新設分割といいます。

合併と同様手続が煩雑なので、中小企業のM&Aにおいては後述する事業譲渡を使う場合が多いです。

 

(4) 事業譲渡

事業譲渡は、会社の事業を他に譲渡する行為です。株式譲渡と違って、その会社の特定の事業に限定して譲渡することができます。

事業譲渡をする場合の対価は、基本的に金銭となります。

 

 

7.敵対的買収

敵対的買収は、前述した通り、買収者が、買収対象企業の現経営者の同意を得ないで行う買収です。

 

(1) 敵対的買収が頻繁に行われない理由

日本におけるM&Aのほとんどは友好的なものですが、日本において敵対的買収がなぜ頻繁に行われないのでしょうか。

 

① 敵対的買収のターゲットとなり得るのは上場会社だけ

まず、認識していただきたいのは、敵対的買収のターゲットになり得るのは、実質的には現在約3,500社存在する上場会社だけということです。

6.M&Aの手法 で説明しましたが、非上場会社の株式は、現経営者の同意を得ずに取得することができません。

また、上場・非上場会社に共通して言えることですが、合併、会社分割、事業譲渡、株式交換等を行おうとする場合は、買収対象企業の経営者と契約等を結ぶ必要があるため、これらの行為も現経営者の同意を得ないままで行うことはできないのです。

 

つまり、現経営者の同意を得ずに買収をするためには、上場会社の株式を譲渡によって取得するしかないのです。

 

② 日本的経営

日本的経営は、長期に渡る利害関係者との信頼関係を重視します。したがって、そもそも、敵対的買収自体が社会に受け入れられない風土があり、敵対的買収を仕掛けることによって当該企業の価値が毀損してしまう可能性も高いと考えられています。

また、日本における敵対的買収の成功事例が著しく少ないというのも理由として考えられます。

 

(2) 敵対的買収の手法

敵対的買収の手法としては、「公開買付け」と「委任状勧誘」がありますが、公開買付けによってなされることがほとんどです。

敵対的買収がなされる前兆は、金融商品取引法における「大量保有報告制度」で知ることができます。大量保有報告制度によれば、買付者が5%を超えて株式を取得した場合は、大量保有報告書を提出しなければならないとしています(5%ルール)。また、その後1%以上増減した場合その他重要な事項の変更があった場合には変更報告書を提出しなければなりません。

この大量保有報告書や変更報告書は誰でも見ることができるので、買付けられている買収対象企業の経営陣はその状況を知ることができるのです。

 

※ 委任状勧誘とは、他の株主から議案に賛成するという委任状を集める手段です。公開買付けが株式取得という直接的な方法によって株主総会の議決権を取得する方法であるのに対して、委任状勧誘は他の株主が有する議決権を代理で行使するという点で相違します。株式を取得しない分、コストがかからないことから、多くの株主を説得できる可能性がある場合に用いられる手法です。

 

(3) 敵対的買収の防衛策

企業が敵対的買収をされないための防衛策は様々な種類が考案されていますが、導入されているもののほとんどは、「ポイズンピル(ライツ・プラン)」です。

ポイズンピルは、新株予約権を用いた防衛策です。敵対的買収者以外の株主が新株予約権を一斉に行使することで、敵対的買収者の議決権比率を下げる仕組みです。

 

防衛策の導入の是非については議論が絶えません。その導入が経営者の保身であってはいけませんが、会社を食い物にするような敵対的買収者からの脅威に備えるためのコストも馬鹿にはならないからです。

 

近年は、防衛策を廃止する上場企業が増えてきております。

敵対的買収が適度になされている方が、経営者が緊張感を持つようになる結果、経営資源をより活かした経営がなされるようになるという意見もあります。そういう意味で、企業価値の最大化が最大の防衛策になると言えそうです。

 

(4) MBO

① 意義

株式の上場を維持するためには、コストがかかります。適時開示や四半期報告書の開示等です。また、敵対的な買収がされるリスクもあります。

そこで、資金的に余裕があり、ブランドイメージが確立している会社が、上場を廃止する動きが目立っています。これにより、中長期的な視点に立った経営が実現できるのです。

その際によく用いられる手法が、「MBO(マネジメントバイアウト)」です。MBOとは、企業の経営陣による買収を指します。MBOがなされると株式も当然流通することがなくなるので、上場は廃止されます。

 

② 買収資金

MBOを行おうとする経営陣がその買収資金を持ってないことが多く、その場合は買収の資金を得るために投資ファンドから買収資金を拠出してもらうこともあります。この場合は、経営陣と投資ファンドの共同での買収ということになり、経営陣は、自らの資金だけでなく、投資ファンドから拠出を受けた資金と金融機関から受けた融資を原資に買収します。そして、企業価値を高めたうえで、投資ファンドは数年後に、株式公開等によって、投下した資金を回収するのです。

 

③ その他MBOが利用される場面

MBOが利用される場面として、選択と集中による整理が行われる場面や事業承継の場面が考えられます。

対象となるビジネスを第三者に承継させるといっても、全く無関係の者に承継させるよりは、例えば、現経営幹部を指名して承継させたいと思うこともあるでしょう。そのような場面でもMBOが用いられます。

取引先や従業員からしても、無関係の第三者に承継されると、「現行の経営方針等が維持されないのではないか」という不安や動揺が生じてしまう可能性もあることから、現経営幹部による買収の方が安心と思うわけです。

 

 

 

以上、ちょっと長かったですが、M&Aについて、基礎から徹底的に説明してきました。まだまだ奥は深いので、気になった箇所については更に調べてみるといいと思います!