電子記録債権・電子記録債務(でんさい)の仕訳・会計処理

電子記録債権会計知識

電子記録債権(でんさい)はその利便性から近年中小企業を中心に急速に広がっています。

そのような状況を鑑み、電子記録債権・電子記録債務という論点が簿記2級の試験範囲に新たに加わりました。
(平成28年6月施工予定の第143回の検定試験から試験範囲となります。)

参考記事:日商簿記検定の試験範囲変更(CPA会計ブログ)

そこで今回は電子記録債権の会計処理を説明します。

1.電子記録債権とは

1-1.電子記録債権≒従来の手形や売掛金を電子化したもの

電子記録債権・電子記録債務とは電子的に記録・管理される債権債務のことを言います。簡単にいうと従来の手形や売掛金が電子化されたものとなります。

しかし厳密には単に手形や売掛金を電子化したものというわけではありません。電子記録債権は手形や売掛金のデメリットを克服した新たな金銭債権と言われます。

1-2.手形や売掛金のデメリット

手形のデメリットとしては取引コストが挙げられます。
手形を発行するためには手形を作成するための事務手続きが必要です。さらに相手方に渡す際に郵送コストや印紙税もかかります。また手形は紛失リスクもあるため保管コストもかかります。

売掛金のデメリットとしては譲渡の煩雑性があげられます。
例えば売掛金を譲渡したい場合には債務者に対して通知をしなければならず、手形のような証券があるわけでもないため二重譲渡のリスクもあります。
また売掛金の決済は自動ではないため取り立てが面倒という側面もあります。

このようなデメリットが手形や売掛金にはあるのです。

1-3.電子記録債権による上記デメリットの克服

電子記録債権は電子化されていることから事務手続き負担が少なく、郵送コスト、印紙税、紛失リスクもありません。
また、譲渡する際に相手への通知等の煩雑な手続きはなく、債権の存在や帰属も電子的に明確であるため二重譲渡のリスクもありません。
さらに決済は自動で行われるため取り立て手続きもいりません。

このように電子記録債権は債権・債務を電子化することで手形や売掛金のデメリットを克服しているのです。

2.電子記録債権の会計処理

電子記録債権はでんさいネットという機関が管理しています。そのため電子記録債権の取引はすべてでんさいネットを通して行われます。

2-1.発生

A社がB社に商品50,000円を掛けで販売したという事例で説明します。(A社:債権者、B社:債務者)

①売掛金・買掛金をでんさいとする場合には取引銀行を通じてでんさいネットにその旨の通知をします。通知は債権者・債務者どちらからでもできます。

②通知を受けたでんさいネットは相手方に対して取引銀行を通じてその旨を通知します。

これで電子記録債権が成立します。

電子記録債権

上記①を発生記録の請求、②を発生記録の通知といいます。

上記ではB社が発生記録の請求をしています。

A社の会計処理は以下のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金50,000売上50,000
電子記録債権50,000売掛金50,000

1行目がB社に対して通常の掛け売上をした際の仕訳です。
2行目がでんさいネットから発生記録の通知が行われた際の仕訳です。

発生記録が行われるとA社では通常の売掛金が電子記録債権に変わるため、売掛金を減少させ電子記録債権という資産の勘定を増加させることになります。

同様にB社の処理は以下のようになります。

借方金額貸方金額
仕入50,000買掛金50,000
買掛金50,000電子記録債務50,000

2-2.譲渡

電子記録債権は譲渡することができます。譲渡というのは手形で言う裏書や割引を指します。

電子記録債権を譲渡する場合には債権者がでんさいネットに対して譲渡する旨を通知します。この通知を譲渡記録の通知といいます。

<取引例>
A社は上記の電子記録債権50,000円のうち10,000円について譲渡記録により仕入先に譲渡し買掛金と相殺した。

借方金額貸方金額
買掛金10,000電子記録債権10,000

また、電子記録債権50,000円のうち18,000円については譲渡記録により譲渡し17,000円が当座預金口座に入金された。

借方金額貸方金額
当座預金17,000電子記録債権18,000
電子記録債権売却損1,000

1つ目がいわゆる裏書の取引で、2つ目が割引の取引です。会計処理自体は従来の手形と同様です。勘定科目は「電子記録債権売却損」勘定を用います。

(補足)
上記の例からわかるとおり、電子記録債権の譲渡については手形よりも利便性が高まっています。
手形の場合には、仮に50,000円の手形1枚を受け取った場合、その内の一部だけを裏書するということはできません。しかし電子記録債権の場合には50,000円のうち10,000円部分のみを分割して裏書・割引ということができるのです。

これは電子記録債権の大きなメリットと言えます。

2-3.決済

決済は銀行を通して自動的に行われます。

 

上記の電子記録債権の期日が到来したため決済された。

借方金額貸方金額
当座預金22,000電子記録債権22,000

A社においては50,000円の内28,000円は譲渡しているため残額の22,000円のみが入金されます。

 

借方金額貸方金額
電子記録債務50,000当座預金50,000

B社は債務額全額を期日に決済します。

 

 

以上が電子記録債権・電子記録債務の会計処理です。

でんさいは様々な企業で利用されていますが、会計処理は特段複雑なものではないためしっかりおさえるようにしてほしいと思います。