税率の引き上げ間近!消費税と軽減税率の仕組みを解説!

会計知識

平成29年4月1日より消費税率が10%に引き上げられることに伴い、軽減税率の導入の是非やその方法について注目が集まっています

消費税は、私たちの生活の中で最も身近な税金ではありますが、その仕組みをしっかり理解できている方はほとんどいないでしょう。
そのため、今回は、消費税の基本的な仕組みを説明し、軽減税率の導入に関する話についても少し触れてみたいと思います。

 

1.消費税の基本的なしくみ

私たちは日常生活の中で何かを買うときに、消費税を払っていますが、消費税を直接税務署に納付しているわけではありません。その証拠に、消費税法第5条《納税義務者》第1項には、以下のように規定されています。

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「課税資産の譲渡等」というのは、モノを販売したり、サービスを提供したりすることだと思って下さい。そして、この条文のポイントとなるのが、「事業者」という部分です。「消費税を納める義務があるのは事業者(会社や個人事業者のこと)だ」と言っているんですね。つまり、私たちのような「消費者」には、消費税を納める義務はないということになります。ですが、私たちが消費税を払っているのは紛れもない事実です。それでは、なぜ私たちは消費税を払っているのでしょうか。

 

(1) 間接税

消費税は、「間接税」と呼ばれる税金の代表例です。「間接税」とは、納税者(税金を納付する者)と担税者(税金を負担する者)が一致していない税金です。このような税金では、「税負担の転嫁」が行われます。

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【図1】をご覧ください。ここでは、事業者が消費者に対して、ノートを300円で販売しています。先ほどの条文によれば、事業者がノートを販売した場合には、事業者は消費税を納める義務があるということになります。すなわち、事業者Aは、ノートを300円で販売したら、30円(300円×10%)の消費税を税務署に納める必要があるのです(税率10%とします)。さて、今回の取引の結果、事業者Aは結局いくらもらえたことになるでしょうか。消費者Bから300円を受け取っていますが、税務署に30円を納めているので、270円ですね。

ここで、事業者Aが消費税の負担を免れるためにはどうすれば良いでしょうか。税務署に30円を納めないというのも考えられますが、それでは脱税になってしまいますので、答えは、「消費者Bから330円をもらう」ということになります。すなわち、消費者Bから、ノート本体の300円だけでなく、事業者Aが納める必要のある30円を上乗せした330円を受け取ろうとするわけです(【図2】参照)。

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その結果、消費者Bがノートを購入するための負担は、ノート本体の300円と事業者Aの消費税30円の合計330円ということになります。つまり、消費者Bは、「事業者Aが納付する消費税を負担している」ということができます。これが消費税の基本的な仕組みです。消費税を納めるのは事業者Aなのですが、消費税の分だけ販売価格を上昇させることによって、消費税の負担を消費者Bに押しつけます。これを「税負担の転嫁」といいます。このように、消費税は、事業者から消費者に税負担を転嫁し、「納税者は事業者、負担者は消費者」という関係になることを前提とする税金といえます。

 

 

(2) 納付消費税額の計算方法

上記では、300円のノートを販売した場合には30円の消費税を納める、としていました。しかし、実際には、30円も納めないケースがあります。それでは、納付すべき消費税額はどのように計算されるのでしょうか。

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【図3】をご覧ください。これまでの図に事業者Cを加えていますが、「事業者Aが販売しているノートは、もともと事業者Cが100円で販売していたものであった」という例で考えていきたいと思います。

(1)で説明した考えに基づき、事業者Cが事業者Aに100円のノートを販売する場合には、110円(本体100円+消費税10円)で販売します。すなわち、事業者Aは、事業者Cに110円を払うこととなります。そして、これを消費者Bに330円で販売します。

ここで、特に調整をせずに事業者Aは30円納付しなければいけないとしてみましょう。そうすると、一連の取引によって、事業者Aのもとには190円(=330円-110円-30円)しか入ってこないことになります。仮に消費税を一切無視して計算すると、事業者Aのもとには200円(=300円-100円)が入ってくるはずです。すなわち、190円しか入ってこないということは、事業者Aは消費税のせいで10円分損をしていることになるんですね。となると、事業者Aは何を考えるでしょうか。(1)のときと同様に、10円の負担を消費者に転嫁しようとし、販売価格を330円ではなく、340円にしてしまいます。その結果、消費者Bは、300円のノートを購入するために消費税を40円も負担していることになってしまうんですね。つまり、消費税率が10%ではなく、13.33…%(=40円÷300円)という状況になってしまいます。

このような問題点を解消するため、事業者Aが納める消費税の計算において、30円から10円を控除します。この控除する10円は、事業者Aが事業者Cに支払った金額に含まれている消費税分の金額です。このようにすると、事業者Aは、この一連の取引から200円(=330円-110円-20円)を得ることができるので、10円分の負担を消費者Bに転嫁する必要がなくなるのです。

つまり、納付すべき消費税額は、「売上げの際に受け取った消費税額30円」から「仕入れの際に支払った消費税額10円」を控除することにより算定されます。

 

 

2.軽減税率の導入

消費税率10%への引き上げ(現行8%)を前にし、軽減税率の導入について議論が行われています。軽減税率とは、標準税率より低く抑えられた税率のことです。平成29年4月1日以後は標準税率が10%となるので、特定の条件を満たす場合に10%未満の税率を適用すべきかどうかということが議論されています。では、なぜ軽減税率を導入する必要があるのか、そして軽減税率を導入する場合にどのような問題が生じるのか、説明していきます。

 

 

(1) 軽減税率導入の必要性

ここからは、消費者の立場から消費税の話をしていきます。モノを購入したり、サービスの提供を受ける場合には、消費税を支払う必要がありますが、その負担は全員8%です。そして、消費税を10%に増税した場合には、全員の負担が2%増となるので、シンプルに公平と言えます。しかし、これが不公平であるという見方もできるのです。どのような観点から不公平かというと、「所得(収入)に対する負担割合」です。

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【図4】をご覧ください。例えば、Dさん(年収2,000万円)とEさん(年収300万円)がいたとしましょう。両者ともに、生活に係る支出が200万円(消費税考慮前)ずつかかるとします。消費税率8%を前提とすると216万円、消費税率10%を前提とすると220万円ということで、増税することにより支出額が4万円増えることになります。この負担増加額の年収に対する比率を見ると、Dさんは0.2%(=4万円÷2,000万円)、Eさんは1.3%(=4万円÷300万円)となります。すなわち、増税による実質的な負担は、所得(収入)の大きい人よりも、所得(収入)の小さい人の方が大きくなってしまいます(これを「逆進性」といいます)。

このような逆進性を踏まえ、低所得者の生活への影響力に配慮する必要性から、生活の中でも特に必須の支出となる「食料品」について軽減税率を導入しようとしているのです。

 

 

(2) 軽減税率導入の問題点

「食料品」について軽減税率を導入する場合には、いくつか議論すべき問題が生じます。ここでは、以下の5点について言及しておきます(他にも論点は存在します)。

 

  ① 対象範囲

② 飲食サービスとの区分

③ 軽減税率の税率

④ 仕入税額控除

⑤ 現場にかかる負担

 

 ① 対象範囲

軽減税率を適用する「食料品」の範囲をどうするかという問題があります。軽減税率導入の目的が低所得者層に対する配慮であるとすると、贅沢品等に軽減税率を適用するのは妥当とはいえず、日常的な食料品に限定することが望ましいといえます。しかし、どこまでを日常的な食料品と判断するか、その基準を設定するのは難しいのです。

例えば、サバは日常品、大トロは贅沢品と言って良いと思うのですが、マグロの赤身はどちらに区分されるのでしょうか。この感覚は、人によっても異なってくるところだと思うので、線引きが難しいといえます。そして、論点はズレますが、これらが盛り合わせとなって販売されている場合、消費税率はどのように適用するのでしょうか。盛り合わせは贅沢だと判断されて、軽減税率の適用対象にはならないのでしょうか。

このように、妥当な基準を設けることが難しいので、食料品すべてを軽減税率の対象とすることも考えられますが、それが果たして妥当なのか判断しなければなりません。

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 ② 飲食サービスとの区分

食料品の譲渡(販売)に対して軽減税率を適用する場合に、飲食店で提供される食料品(料理)との区分をどうするかという問題が生じます。飲食店で提供される食料品は、食料品の譲渡というよりは、飲食サービスの提供なので、軽減税率を適用する必要はないと思いますが、単なる食料品の譲渡なのか、飲食サービスの提供なのかの判断が難しい事例も存在するのです。

例えば、スーパーが生ハムをスライスされた状態で販売している場合に、これは食料品の譲渡ということで軽減税率の適用対象になるとします。では、飲食店で提供する生ハムは、軽減税率の対象に含まれるのでしょうか。仮に両者ともにサンダニエーレ産の生ハムで使用している部位も同じという前提条件の場合に、両者で適用される税率が異なるのは、違和感があるのではないでしょうか。

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 ③ 軽減税率の税率

軽減税率を導入することとした場合、その税率を何%にするかという問題があります。税率を軽減するということは、その分国家の税収を下げることになります。しかし、消費税率を現行の8%から10%に引き上げるわけですから、食料品について軽減税率を適用することによって、以前の税収を下回ってしまうことは望ましくないと言えます。そのため、少なくとも以前の税収水準を維持しつつ、逆進性の緩和を図ることのできる税率を模索する必要があります。

 

 ④ 仕入税額控除

納付消費税額は、売上げの際に受け取った消費税額から仕入れの際に支払った消費税額を控除することにより算定するということを前述していますが、仕入れの際に支払った消費税額を控除することを「仕入税額控除」といいます。

ここで、軽減税率が導入された場合には、仕入れの際に支払った消費税額の中に複数の税率が存在することになります。そのような状況下で適正な仕入税額控除を計算するためには、どのような制度を導入するかが問題となっています。

この点、イギリスやフランスでは、インボイス方式を導入しています。すなわち、モノやサービスを購入した場合には、インボイスという明細書を発行してもらいますが、この明細書には「税抜価格」と「消費税額」が記されています。そして、仕入税額控除の適用を受けるためには、このインボイスが必要となるのです。つまり、インボイスに記されている「消費税額」についてのみ、仕入税額控除の適用を受けるということです。

なお、日本では、現在インボイス方式は導入されていませんので、軽減税率を導入する場合には、当該制度を導入するかどうか検討しなければなりません。

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 ⑤ 現場にかかる負担

軽減税率を適用した場合、スーパー等の多くの事業者で対象品目の仕分け、レジの取り替え、申告納税事務等の手間やコストがかかってしまうという問題があります。

また、課税庁側(税務署等)でも軽減税率へ対応するための準備や、執行体制の見直しが必要となります。

 

このように、軽減税率を導入することには、多くの問題点があります。これらをどのように解決していくのか、今後の政府の動向に注目したいところです。