東芝問題のような粉飾決算について、公認会計士から見る監査制度の現状!

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最近は、企業の粉飾決算が話題になることが多くなっていると感じています。

東芝さんやオリンパスさんの問題や、一昔前はカネボウさんの問題なども起こっています。

このような粉飾決算が起こると、

公認会計士の監査は何をやっているんだ。

不正を見逃しているのではないかというお叱りの言葉を受けることが多いのですが、

公認会計士の立場として、現状の監査制度について考えを述べたいと思います。

1.そもそも監査の意味は

まず、監査はなぜ行っているのでしょうか。公認会計士による監査は、会社が作成した財務諸表が適正に作成されているかを外部の専門家がチェックすることです。

会社は資金を事業に投下し、利益を稼ぐことで資金提供者に分配を行うことを目的にしています。小規模企業の様に、社長が自分で株主として資金を提供している場合には、どのようにお金を使うのか、事業の状態がどうなっているのかを外部の利害関係者に適切に報告する意味も少ないかもしれません。

しかし、銀行から多額の借入を行っていたり、上場企業の様に、外部の投資家から多額の資金の提供を受けている場合には、適切に事業を営むことと、会社の業績を適切に報告する義務が生じるのです。

投資家の方や銀行は、会社の成長性や安全性を財務諸表で確認することで資金提供の可否を判断しているのです。

そのため、万が一公表されている財務諸表に粉飾が行われていれば、投資家の方や銀行に多額の損害が生じてしまうため、公認会計士の監査が義務づけられているのです。

2.粉飾決算をゼロにできるのか

粉飾決算はゼロを目指すことが理想であるのは間違いない事実です。しかし、すべての粉飾決算を事前に発見することは極めて困難であるという事実も理解してほしいと思います。

経営者が意図的に不正を隠ぺいしようと工作したり、外部企業と共謀して不正を隠ぺいしようとするものをすべて事前に発見することはなかなか容易なことではありません。さらには、近年では海外の企業との取引も増大していたり、グループ会社が海外に多数ありなかなか全貌を把握しずらくなっているという現状もあります。

犯罪もゼロにするのが理想ですが、警察もすべての犯罪を事前に防げないのと同様で、公認会計士の監査もすべての粉飾決算を事前に防ぐのはなかなか厳しいのです。

また、公認会計士の監査により、99%以上の粉飾決算は事前に防げているという事実もあります。それでも東芝問題やオリンパス問題などが生じると、公認会計士の監査は意味がないのではと言われてしまう現状もあるのです。

もちろん、粉飾決算を発見していたのにも関わらず、公認会計士が意図的に見逃すという事態は論外です。しかし、状況に応じて適切な監査を実施したにも関わらず、粉飾を発見できないことがあるのもまた事実なのです。

そのような場合に、リスクをゼロにしようと更なる監査の厳密化を求めることは、無駄な監査手続きを増やすことに繋がり、本来ビジネスの推進のための監査制度が、ビジネスの足を引っ張ってしまうことにもつながりかねないのです。

3.日本の監査報酬の実態

監査を行う際に、企業から支払われる監査報酬が、日本は世界に比べて圧倒的に少ないという状況もあります。日本の監査報酬は、アメリカの1/4、他の先進国の平均の1/2以下と言われています。本当に粉飾を今よりも少なくするのであれば、もっと多くの人員を割き、より詳しく監査を行うことが必須です。我が国の監査制度の現状は、お金は少なくしか払わないけど、監査の質だけはどんどん高めてほしいという現場が疲弊する状況になっているともいえるのです。

では、なぜ日本では監査報酬が安いのか。それは、以下のような理由がいくつかあります。

(1)もともとは馴れ合い監査だった

日本は高度成長期には、あまり倒産する会社が少ないという状態がありました。また、銀行からの借入を中心に資金を調達していた背景からも、監査をそこまで厳密に行うという文化が醸成されていませんでした。そのため、20年・30年前までは、諸外国に比較して、相当なれ合いの監査が行われていたのも事実です。そのため監査報酬も低く抑えられていました。

(2)オーナーと社長の役割が異質

諸外国では、会社のオーナーと経営者の役割が明確にわかれています。そのため、会社のオーナーは経営者による粉飾決算を防ぐためにも、監査報酬をしっかりと支払うので、その分厳格な監査を行ってほしいというニーズを持っています。なぜなら、監査報酬を多少引き下げる効果よりも、粉飾決算が起こる可能性を下げる方が何十倍も効果があるためです。

対して我が国日本では、オーナーの立場が不明確であるため、経営者が実質的な権限も有し、かつ財務諸表も自分で作成しているという特殊なガバナンスになってしまっています。そのため、経営者が自分たちが作成した財務諸表を監査する公認会計士に対して高い報酬まで支払って厳格に監査をしてほしいなどと思わないのです。できることならなるべく監査をしてほしくないぐらいの文化が経営者の中には根強いのではないでしょうか。これも監査報酬が低く抑えられている要因です。

(3)投資の文化がないので監査報酬はコストと思われている

上記の二つの理由から、本来は外部から資金を調達できるというメリットを享受できるために不可欠な監査が、ただのコストというような捉え方をされている側面があります。そのため、公認会計士側も監査報酬を支払ってくれる経営者側にあまり強く出れないという本末転倒な状態になっているのです。

アメリカではそんなことは全くなく、オーナーからしっかり監査をしてほしいという要請が働くため、公認会計士も経営者には強く出れますし、万が一粉飾決算をするような経営者であれば、オーナーから解雇を通達されてしまうのです。

4.現場にすべてのツケが回っている

日本でも、近年は欧米並みの監査の質を求められており、内部統制監査など新たな業務がどんどん増えていきます。また、粉飾決算が起こるたびに監督官庁の金融庁からより厳密な監査を実施するようにという要請が起こり、それに対応する形で、監査業務は依然の倍ぐらいに増えているのではないでしょうか。

しかし、そのような状況においても監査報酬が上がらないため、現場で監査を行っている公認会計士にそのツケが回っているのです。

5.形式的な部分を整えて粉飾決算はなくならない

内部統制監査や、形式的な手続きをいくら増やしても粉飾決算をなくす効果は高くないのではないでしょうか。なぜなら、最終的にどんなシステムを導入しても、そのシステムを運用する人間の意識の方が何倍も影響が大きいからです。

そのため、経営者自身が粉飾決算をしないほうがいいという意識改革を行わない限り、どんなに形式面を整えたり、監査を厳密にやっても、いくらでも粉飾決算を行える可能性は有ると思います。

6.日本の実態に合った監査制度の方向性

(1)監査報酬を引き上げる

まず何よりも大切なのが、監査報酬を欧米並みに引き上げることだと思います。そうしなければこれ以上の人員を割いたり、より厳密な監査を行うことは困難と言えます。

そのためには、投資家の皆さんも監査の意味と限界を理解していただき、監査報酬をしっかり払うことが大切だという意識を経営者に伝えていかないといけないと思います。

(2)公認会計士も絶対に粉飾を見逃せないという意識を強化する

公認会計士自身ももっと自分たちの襟を正さないといけないのは間違いないです。もちろんほとんどの公認会計士は粉飾決算を見逃すことは絶対にしてはいけないと強く意識しておりますが、一部の公認会計士は一昔前のなれ合い監査の価値観をいまだに持っている方もいるのが現実です。そういう方は経営者と持ちつ持たれつの関係を築いていることも重要などという時代錯誤の認識を持っているので、時代に合わせた意識改革を行わないと、公認会計士監査制度自体の信頼を失墜させるリスクがあります。

(3)経営者側も絶対に粉飾をしてはいけないという意識を強化する

経営者側も、資金を外部から調達するためには、適切な監査が不可欠であり、一時しのぎの粉飾決算のツケは、取り返しがつかないことになるという認識が大切です。

粉飾決算をするぐらいなら、業績の悪い財務諸表を開示した方がいいという認識を経営者自身が持たないことには、粉飾決算はなくならないでしょう。

色々書きましたが、公認会計士としては、粉飾決算がゼロになることを目指し続けないといけないと思っていますし、東芝問題やオリンパスの問題も公認会計士側に落ち度があるのは事実だと思います。

しかし、このような粉飾決算が起こってしまう前提としては、日本の監査制度を取り巻く諸環境にも大きな問題があることは理解してほしいと思います。

日本が真にグローバル社会で競争力を発揮するには、適切な情報開示と、世界レベルの監査制度が担保されることが不可欠だと思っています。

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